皿倉山十二景



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蒼景 帆柱山系 旭光 黒崎より 皿倉山と桜木
萌色 透景 八高グランドより皿倉山と洞海湾
萌生 八高グランドより皿倉想景 皿倉暮景
黒崎旧街道と松並木八幡駅前けやき通り
           

北九州市にある福岡県立八幡高等学校が私の出身高校である。旧制中学に入学して、 終戦、新制高等学校編入という、社会も教育界も変動期の中の高校時代だった。 高校の美術科の先生との出会いが美術の世界へと進むきっかけとなり、今日の私が あることを思えば、母校は私の基盤を作ってくれたありがたいところでもある。

 母校を抱き込むように聳える皿倉山は、故郷の人たちはもちろんのこと、故郷を 離れている卒業生たちも、この山に対する思いは強い。事あるごとに山を思い浮かべ、 励まされ、勇気づけられたという話をよく聞く。
 八幡市(現北九州市)に生まれた私には、その皿倉山は空気の様な存在でもあった。 それだけにこの山は忘れがたく、時折、空気を体いっぱい吸い込みたいと帰郷する。  みんなの皿倉山に対する思いと同じように、母校に対する想いも強く、その形と して同窓会活動も盛んである。それを象徴するように、同窓会「誠鏡会」の総会には、 当番期の方々の努力もあり、約2,000人の同窓生が会場を埋め、老いも若きも一体 となって校歌を斉唱するとき、場内には熱風の渦が巻く。

 若い日を思い、いまある自分を母校とダブらせてエネルギーの源とする、こんな 思いが「誠鏡会」の会員には強いのか、私たちは日本有数の同窓会であると自負している。  各地に同窓会の支部があり、私は「関西誠鏡会」の一員である。
 1989年から、木版画を創るものとして“我らがシンボル皿倉山”の木版、 200枚を額装し、「関西誠鏡会」総会の出席者に「会」として差し上げるよう になって、もう10年になる。  毎日、山を眺めて成長した私には、それぞれの角度からの山の姿はしっかり脳裏 に刻み込まれているが、同窓のみなさんに差し上げる作品を創るため、毎年、帰郷 してデッサンすることにしている。それは、いまの自分の感性に響くものを差し上 げたいと思うからで、阪神・淡路大震災のときには陸路の交通は使えず、空路の 取材もあった。どんなときでも、そのとき、そのときの自分を大切にしたいから であり、小品だから手を抜くということが出来ないのである。

 作品を買い上げていただく場合は、その作品に感じるものがあってのことと思い、 いつも感謝と喜びを忘れないが、出席者全員に差し上げる場合、好むと好まざるとに かかわらず、相手に押しつける形になるので、とても緊張する。それだけに、大作を 制作するときと同じ気持ちになる。私の思いの作品にならないときは、何回か彫り直し、 摺り直す事がある。しかし、作品にはそんな所を見せないことにしている。  1992年4月、4枚目の皿倉山を創るため、高台に移転した新しい母校を訪ねたが、 皿倉山は旧校地とおおむね同じ方向にみえた。目を180度移すと、北九州の市街地と 響灘、そして中国地方の山々が“静と動”の姿を見せており、生徒たちの心は自由に空 を泳いで志の芽を膨らませる事の出きる申し分のない環境に、私の心は晴れやかだった。
             出会いのふろしき (清田雄司)より抜粋


24回総会(2001)より 「八幡駅前けやき通り」

関西誠鏡会総会出席者に記念品として皿倉山をテーマにした木版画作品を創って欲しい と依頼されたのが丁度、八幡高校創立70周年の年であった。 以来、皿倉山をテーマにした作品を創り続けて今年で13年目となる。初めは、こんな に長く「皿倉山シリーズ」を続けることは考えてなかったが、卒業生の皆さんの皿倉山 に対する熱い思いに支えられ、今年も作品を創ることになった。

 体調が充分でなく青春を過ごした故郷を訪れることのできない、ご高齢の方には大変 喜ばれた。中には涙を流されて懐かしさを話してくれる先輩もあった。  全国で活躍を続けられている卒業生の方々は、皿倉山の作品を目前にして、八中・八 高時代そして若き日の事々が思い出されて、新たなエネルギーが湧き出してくるという 話を良く聞く、同じ釜の飯を食べて育った皆さんに故里の空気を少しでも、お贈りできる 事は嬉しいことである。そんな気持ちから、各方面から見た山の姿を作品にしたいと苦心する。

 今年の作品は昭和二十四年から十八年間美術の先生として指導をいただいた故嵯峨山先生 の七回忌に北九州市立美術館で遺作展を計画し(五月二日〜六日)実行委員として、何回と なく花園町のアトリエを訪れた。その度に、八幡駅前に立つと、眼前に皿倉山が迫り、無数 の芽をつけながら春へと向かう駅前の欅並木との組み合わせに勢いを感じてデッサンをした。

作 品−1 作 品−2 作 品−3 誠鏡会と皿倉山