大英博物館収蔵作品   その3



行く道    「大和葛城山頂」   1995年


行きつ、止りつ踏み固め続けて道が生まれた。
 丘の向こうに広がる世界はは魔術師のように、人のおもいの 数だけ姿を変えて、微笑み、怒り、悲しみ、慈しむ。
 彼方にひろがる空に、おもいをよせて、私は今、行く道を 踏むつけて立つ。 



夏 粧    「奈良・室生村の大欅」 1993年


冬の気を吸い込んで、また一つ年を刻んだ大欅は、陽春の風に 芽を吹き、萌色燦と枝を広げる。
八十八夜の頃、陽射しの強さに色を深め緑蔭に鳥獣を抱き、 人の心を包む。
400年の樹齢は、なお生の力をみなぎらせ、壮年の粧いを 整えて室生路にそびえる。

残照帰心(大和葛城山上より和泉山系をのぞむ)1997年


山並みに打ち込まれた鉄柱や麓まで迫っている住宅団地は、人間の執拗な侵略に見えた。  そんな山並みを霞の衣でかくしてしまうことが多い。
 霞む山並みは、薄墨の世界を演出し、蒼々と動く姿をつくり、時には夕陽と呼応し、 赤味の光に染まって胎内に宿る清し生命の原点を見せる。
 蒼い世界は望みが溢れ、モノトーンの山並みは無我の世界へと誘い込む。  山々は黙して全てを包み込んで、悠々と時を刻みつづける。
 やはり自然は大きい、深い、そして愛しいが恐ろしくもある。

賀露砂原 (鳥取県・賀露)1975年


鳥取砂丘の西端の町、賀露は砂原となって灌木と草と砂が混在して 訪れる人もない。
 日本海の海辺に魚師たちの作業小屋が、荒廃した砂地とよく調和し て、かえって人間の営みと、自然の気取らない姿が見えて、描くサイ ンペンに力がこもる。
 8月、35度の暑さに汗が全身から吹き出し、生きている充実感に 満ちて砂原の響きを夢中になってデッサンした。

皺相・室生寺  (奈良・室生寺の大杉)1996年


 室生寺は春夏秋冬それぞれの姿を見せ、絶え間なく訪れる人々の諸願は、全山の樹達に もとどいて、 葉を響かせ、海鳴りに似た念想の風をおこして包み込む。
 1000年杉は齢の数だけ、人々のおもいを内抱いて、その営みの深さは 樹肌を盛り上げ、谷をつくり、深い皺を刻んで流をつくって地中に注ぐ。
 今日も1つ、その人のおもいを刻み込んだ樹は皺をふやしながら泰然と 天空の彼方を突く、その姿は、両界曼茶羅図(金剛界曼茶羅・胎蔵界曼茶羅) のようで、仏の相を見る。

群家    (三重県磯崎町) 1986年


太平洋に面した急斜面の崖に、へばりつくように群がって建つ家々は潮風に色を落としながら 海の彼方を見る。  その姿は漁夫たちの連帯の姿にも見えて、漁村の営みが靴裏にも伝わる。  点在する洗濯物は明日へつながる漁民の活力と見た。

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