大英博物館収蔵作品    その2


大 地 豊 潤 「奈良・山添村めえめえ牧場」 1991年


牧草の上に描きかけのパネルを置くと、2〜3mmの虫やバッタたちが乗ってきて白い画面が黒くなる。 そして、すぐ何処かへ消えてしまい白い画面にもどる。それは急に天井を塞がれた虫たちの抗議の姿 のように感じられた。
 子蛙は5回くらい跳んで描いているパネルを越えていき、親蛙は3回で跳び越えたが、そのあとが ぬれていた。カサカサカサ、トンボが画面に止まろうとして足をすべらせる音、描く手を止めて横目 でじーっと見る。蟻は描いている鉛筆をひと回りしてどこかに消えていく、次の蟻も同じように動いて 何処かに消えた、好奇心旺盛な蟻たち。バッタが飛んできて描いている草原の上で,じーっと私を見る、 私もじーっと見る。トーンと音がした、飛んできた虫がパネルに衝突した音である、草かげを転がり ながらどこかへ飛んでいった。
 一日座して描いていると虫たちのさまざまな姿が見える。人間の視点では見落としてしまう草原の 世界にも多くの生命(いのち)の営みを見る。
 地底に燃えさかるマグマは豊潤な地表をつくり、草木を産んで果てしなく広がる母なる大地の恵となる。



大 樹 昇 龍  「室生村・古大野」 2000年


室生村の山里、古大野の神明神社に樹齢1000年の大銀杏が境内の樹たちや人々の諸々のおもいを 背負い仁王像のように ふん張り、くねり、のたうちながら空を指す。
 その勢いは、龍が天に昇る烈しいエネルギーのほとばしりにも見え、尚、盛生の意欲を漲らせて 山里に繁生の気を送る。



尚 生 「大和郡山の楡の樹」  1992年


地上50cmで切られた楡の樹は丸太棒のようになり、 木口から無数の枝を出し烈しく生きる意欲をみなぎらせて いた。
それは木精観音の姿に見えて、作品「烈生」を創った。
 それから1年、再び小枝が切り取られ、楡の樹は黙して皺を増す。  早春、かすかな緑が木口に生まれる。切られても、切ら れても、なお生きるしたたかな意欲と逞しさは、子をはぐ くむ慈母の姿に見えた。
芽たちはいつくしみに包まれて、日に日に動き、萌生 の讃歌を大空いっぱいに響かせる。



泰 然 「桜井・鹿路天−神社神木杉」 1987年


奈良の多武峰より吉野に抜ける道を、しばらく歩いて左手の林道の奥に天一神社がある。  ここは杉の大樹が御神体である。小山となってそびえ立つ姿は崇高であり、巨大な緑の 炎となって、地底から吸い上げられたエネルギーを逞しく空へ空へと伸ばす。その生への 意欲に信仰の心を持つことが私にもずっしりと伝わってくる。
 10本の杉大樹は輪状となって陽空につきささり、樹々の内側には枝はなく、杉の社の 天然ドームとなって静かな瞑想の空間を作る。外側には陽光を求めて大枝が幾重にものびて 烈しく生へ大樹悟恵の意欲をみなぎらせている。
 大樹の根元は縦に彫り込まれた樹皮の皺に無数の横皺が隆起してはしる。その皺が幹の 中心部で縦皺となって地中にめり込む、その見事さに声も出ず吸い込まれていく、白翁の 額の皺の多さと深さではたとえられないすざましい樹の 生きざまのしるしである。根元のゆるやかで、おおらかなカーブは根の深さと広がりを 暗示させ、樹とこの地の人々の歴史を語りかける。絵を見ていた古老が「子供の時、 この根元をどこまでかけ上がれるか競争して遊びました」と目を輝かせて話してくれた。
 この世がどのように変わっていってもただ自然の恵の中で泰然と生き続ける杉大樹は 黙して、なおずっしりと説得力をもって迫ってくる。            

曼 曼  「葛城・伏見の孔雀欅」 1992年


金剛山麓、伏見の空に扇形を越え、正円の形を整え聳えたつ欅1本。 吹く風は早春の気をのせて樹々を洗う。
梢は新しく生まれた風たちとたわむれ、枝がゆれる姿は羽をいっぱいに広げた孔雀に似て 美しく、折々の空気は時に繊細、華麗に、そして営みの讃歌を演出して造形の意欲を形づくる。 この欅を孔雀欅と命名し、永遠の姿をこの世に刻むため、溢れるおもいを込め200年後 の姿を想して、「翔翔」、「翔舞金剛」「曼曼」を産む。
樹にも心があり、感情がある、そして200年、500年、1000年と人間の尺度を超えて生きる。  孔雀欅よ永遠に・・・・・・不死樹の願いを込め、モノトーンで「曼曼」を創る。

仙 花 呼 春(呼春花)−越前海岸「呼鳴門」付近 1991年


海鳴りは雲を呼び、怒濤の響きは人里をのむ。 彼方に出来た粒雪の壁は、風の速さにのって丘陵を駈け、百萬の仙花を たたいて大地に消える。 花たちは寒風に洗われ、雪を吸い込むたびに色冴えて、早春暖味の丘と なる。 地中に結んだ連帯のぬくもりは、互いに寄りそい、助けあい大空に向かって凛(りん)と咲く。 目があった花たちに「元気かい!)と声をかけると明るく輝き、 かすかにゆれて梅の彼方に春を呼ぶ。            


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